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コラム

伊藤園の新作「CHASER BREWING」から見る、日米で進む”ホップ飲料”トレンド

NAB Lover ・ 2026.10.31

伊藤園が仕掛ける「アルコール代替」という新ジャンル

2026年10月19日、伊藤園は首都圏の一部量販店で新商品「CHASER BREWING」のテスト販売を開始しました。注目すべきは、この商品が「ノンアルコールビール(お酒テイスト)」ではなく、「アルコール代替」という新しいジャンルを掲げている点です。

商品は2種類。緑茶とホップを組み合わせた「JAPAN HORIZON」(フルーティーな風味)と、紅茶とホップを組み合わせた「INDIA SUNSET」(トロピカルな風味)で、いずれも350ml缶・税抜200円。パッケージには動物のイラストがあしらわれ、クラフトビールを思わせる遊び心のあるデザインになっています。

開発したのは、伊藤園が2024年5月に立ち上げた新ジャンル開発チーム。背景にあるのは、Z世代を中心とした若年層の「お酒離れ」と、「お酒の味自体が苦手」という声です。そこでチームは、ビールやお酒の味を模倣するのではなく、お茶をベースにした飲料の延長線上で「満足感のある代替飲料」を目指しました。

ホップを主原料として使うのは伊藤園として初めての試みで、約200種類のホップから20種類程度まで絞り込む作業を行ったといいます。ホップの苦みを使った理由も明確で、炭酸と合わせた時にお茶の渋みが悪目立ちしてしまう課題を、ホップの苦みで中和する狙いがあったとのこと。さらに、既存のノンアルコール飲料が「飲みごたえの物足りなさ」という不満点を解消できていなかったことも、開発の出発点になっています。

現時点では首都圏の一部量販店での小規模なテスト販売にとどまりますが、2027年の全国展開を視野に入れており、将来的にはノンアルコールを含む酒類売り場での販売も計画しているとされています。

実はアメリカが数年先を行く「ホップウォーター」市場

伊藤園の挑戦と驚くほど似た動きが、実はアメリカで数年前から進んでいます。それが「ホップウォーター(Hop Water)」というカテゴリーです。

ホップウォーターは、ノンアルコールの炭酸水にホップで香りづけをした飲料で、ビールのような製造工程やカロリーを伴わずに、ホップの香り・苦みだけを楽しめるのが特徴です。米国の調査会社3Tier Beverages(NIQのスキャンデータを分析)によると、2024年12月28日までの52週間で、店頭での販売額は前年比20%増。特に1月(Dry January時期)には前年同月比48%増という急成長を見せています。

代表的なブランドには、以下のようなラインナップがあります。

  • Hoppy Refresher(Lagunitas Brewing/Heinekenが支援)
  • HOPWTR(Constellation Brandsが2021年に少数株式を取得、後に完全子会社化)
  • Hop Splash(Sierra Nevada Brewing)
  • Hop Lark(Brooklyn Breweryが少数株式を保有)
  • Sparkle Hops(Pelican Brewing)

このジャンルで特に面白いのが、カリフォルニアの老舗クラフトブルワリーLagunitasが展開する「Hoppy Refresher」です。同社の醸造チームは実は8年ほど前からノンアルコール飲料の試作を続けており、レシピ自体はほぼ変わっていないといいます。つまり後発の”機能性ドリンク”的なホップウォーターとは異なり、あくまで「醸造の延長線上にある一本」としてブランドを組み立てているのが特徴です。フレーバーもシトラス、ブラッドオレンジ、パッションフルーツ、レモンベリーなど香りの訴求を前面に出し、「クラフト=ホップの風味」という定義で勝負しています。

ブランド戦略も独特で、多くのノンアルコール商品が「Dry January(禁酒月間)」を軸にメッセージを組み立てるのに対し、Lagunitasは「Wet January」という独自の切り口を掲げています。飲む・飲まない・その中間を自由に選べることを重視し、ターゲットも「新しく炭酸水を探している層」ではなく「時々お酒を控えたいビールファン」にあえて絞り込んでいます。売り場もノンアルコールクラフトビールと同じ冷蔵ケースに置かれることが多く、ホップウォーターというジャンルの中でも「ビール文化の一部」という立ち位置を明確にしている点が、他ブランドとの差別化になっています。

興味深いのは、こうしたブランドの多くがクラフトビールメーカー自身によって展開されていることです。クラフトビール市場の縮小で生まれた余剰の生産能力を、低コストで作れるホップウォーターに転用する動きが背景にあります。Allagash BrewingやPartake Brewingといったブルワリーも同様に参入しており、「ビールの代わり」というより「日中に楽しむ爽快な炭酸飲料」という位置づけで売り場に並んでいます。

ただし米国でも、ホップウォーターはまだ独立したカテゴリーとして確立されたわけではありません。小売店の棚でも、炭酸水寄りに置くかノンアルコールクラフトビール寄りに置くか定まっておらず、現状はノンアルコールビールの売り場に並ぶケースが多いとされています。

日米の違いと共通点:なぜ今、ホップが”飲料”の主役になるのか

伊藤園の「CHASER BREWING」と米国の「ホップウォーター」、並べてみると面白いのは、ベースにしている飲み物がまったく違う点です。アメリカ勢は炭酸水にホップを香らせるシンプルな発想ですが、伊藤園は緑茶・紅茶というお茶をベースに持ってきました。炭酸と合わせると出てしまうお茶の渋みを、ホップの苦みで打ち消すという、いかにも日本のお茶メーカーらしい発想の転換です。

売り手の立ち位置も対照的です。アメリカでは、Lagunitasのようにクラフトビールメーカーが本業の延長で参入しているケースが目立ちます。Lagunitasは8年前からレシピを試作してきた”醸造の歴史”を売りにしていますが、伊藤園はそこを「お茶の抽出技術」で勝負している。武器にしているものは違うのに、「自分たちの本業の強みをそのままホップ飲料に持ち込む」という発想そのものはよく似ています。

一方で根っこにある課題はほぼ同じです。アメリカでも日本でも、「既存のノンアルコールビールやソフトドリンクじゃ物足りない」という声が開発の出発点になっています。アメリカはNAビールの”代わり”ではなく独自路線を探り、日本は「お酒の味を再現しない」方向に振った。アプローチは違うけれど、どちらも「今あるカテゴリーの延長では解決できない」と判断したところから始まっている点は同じです。

ターゲット設定にも共通点があります。米国のホップウォーターがDry January(1月の禁酒月間)に合わせて売上を伸ばすのと同じように、伊藤園の開発背景にもZ世代の飲酒離れがしっかり挙げられています。ただし面白いのは、Lagunitasがあえて「Wet January」という切り口を掲げていること。禁酒を前提にしすぎず、「飲む・飲まない・その中間、好きに選べばいい」というくらい肩の力が抜いたメッセージの出し方は、日本のブランディングにもヒントになりそうです。

まとめ:ホップは「ビールの原料」から「飲料そのもの」へ

これまでホップは、あくまでビールの香りづけ原料という位置づけでした。しかし、米国のホップウォーターと日本のCHASER BREWINGの動きを見ると、ホップそのものが「飲み応えのある清涼飲料」の主役になりつつあることが分かります。

伊藤園がテスト販売の段階で2027年の全国展開を視野に入れている点、そして米国のホップウォーター市場がまだ「炭酸水」と「ノンアルビール」の間で棚の定位置を探している最中である点を踏まえると、このジャンルは日米どちらでもまだ発展途上です。ANY HOURとしても、今後のCHASER BREWINGの展開や、LagunitasのHoppy Refresherをはじめとする米国ブランドの動向を継続的に追っていきたいテーマです。


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