2026年、旅行メディアConde Nast Travelerが今年の旅行トレンドの一つに挙げたのが「ドライツーリズム(dry tourism)」だ。お酒を飲む・飲まないを状況に応じて選ぶという「ソバーキュリアス(sober curious)」の考え方が、観光業界・ホスピタリティ業界を動かし始めている。
背景にはデータもある。世論調査会社Gallupの調査では、2025年にお酒を飲んだと答えたアメリカ人の割合は54%で、1939年以来最も低い水準だという(islands.com記事が引用したGallup調査より)。別のGallup調査(2023年8月)では、35歳未満の飲酒率は62%で、20年前の72%から10ポイント下落。18〜34歳では「1日1〜2杯でも健康に悪い」と考える人の割合が18ポイント上昇したという結果も出ている(fox5dc.com記事より)。
ニューヨークのゼロプルーフバー事情については別記事で詳しく紹介しているので、気になる方はこちらをチェックしてほしい。
→〔NYCで”Sober Bar(ノンアルバー)”が静かに増えている ― 街の空気が変わってきた話〕
この記事では、バー以外の場所で起きている動き——イベント、航空業界、ホテル業界——に焦点を当てたい。
2025年9月27日、ニューヨークのチェルシー地区にあるThe Altman Buildingで、ニューヨーク初とされるゼロプルーフ(完全ノンアルコール)フェスティバル「Drinks with Benefits」が開催された。主催はテイスティングイベントを手がけるBottle Raiders(創業者Dan Abrams氏)で、60以上のゼロプルーフ・ファンクショナルドリンクブランドが出展した。
内容はかなり本格的で、試飲ギャラリー、モクテルの作り方を学べるミクソロジー・ラボ、Cipriani Caféとのオマカセペアリング、1日中DJが回る音楽ラウンジ、ノンアルコールビールを扱うビアガーデンまで用意された。さらに、9名の審査員が200件以上の応募作を審査する「Zero Proof Choice Awards」という表彰企画も実施されており、「お酒を飲まない夜」が単なる代替手段ではなく、一つの完結したエンターテインメント産業として育ちつつあることがうかがえる(bevnet.com、timeout.com記事より)。
同様のフォーマットは実はニューヨークが先駆けではない。ワシントンD.C.では2022年から「Mindful Drinking Fest」が開催されており、2024年の開催では40以上のノンアルコール飲料ブランドが出展、120種類以上のドリンクが提供された。イベントディレクターを務めるのは、D.C.の有名バー「Columbia Room」の生みの親であるバーテンダー、デレク・ブラウン氏だ(washingtonian.com、fox5dc.com記事より)。こうした都市型フェスの広がりは、ノンアルコール文化が「ニッチな選択肢」から「一つのマーケット」へと育ってきたことの表れと言えそうだ。
ドライツーリズムの波は、移動と宿泊そのものにも及んでいる。
航空業界では、American Airlinesが米国内のFlagship Lounge(フラッグシップラウンジ)やAdmirals Clubラウンジで、Athletic Brewing社のノンアルコールビール「Free Wave Hazy IPA」を常備。さらに2026年2月1日からは同ブランドのノンアルコールビールを機内のドリンクメニューにも追加し、American Airlinesとして初めて機内でノンアルコールビールを提供する航空会社になった。JetBlueも2023年に、Athletic Brewing社の別商品「Upside Dawn Golden」を機内で提供開始しており、ノンアルコールビールは今やアメリカの主要航空会社で標準的な選択肢になりつつある(businesstraveller.com、parade.com、tastingtable.com記事より)。
ホテル業界の例としては、ニューヨーク・タイムズスクエアにあるTempo by Hilton内のバー「Highball」が、カクテルだけでなくモクテルも用意しているという(The Points Guy記事より)。業界調査(Hotels.comによる2023年調査)では、旅行者の4割以上が今後1年以内に「デトックス旅行」を予約する可能性があると回答し、半数近くがアルコールフリーの選択肢を手軽に用意しているホテルに関心があると答えている(同記事より)。
バーという「場」だけでなく、フェス・航空会社・ホテルといった業界全体がドライツーリズムに対応し始めているのは、ノンアルコール飲料が一時的な流行ではなく、旅行・外食・移動というあらゆる生活シーンに組み込まれつつあることを示している。ノンアルコールビールブランドにとっても、こうした「飲む場所・飲む機会」の多様化は、新しい販路や体験型のプロモーションの機会になるはずだ。ANY HOURでは、こうした業界側の動きも引き続き追いかけていきたい。
参照
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